ジョン・ウェスレー 『キリスト者の完全』①

 ジョン・ウェスレー:信仰、伝道、神を第一にすることに関する10の ...

『キリスト者の完全』というウェスレーの著作を先日初めて読んだ。それまでは、「聞きかじり」ばかりしてきた書である。


いろいろな人が、いろいろなこの書についての「うわさ」を語るのを耳にしてきたが、「今さら」な思いを禁じ得ないで、読んでみた。

 

読んでみて、驚きと混乱、尽きない疑問がわいてきた。それが正直な感想である。

 

私は信仰を与えられてからずっと、改革派系やルター派系の神学によって養われてきた。


このブログの記事を読んで頂いている方はご存じかもしれないが、このブログに登場する神学者も大抵はこの二つの教派に分類できる神学者だと思う。


メソジスト系の神学者は、これまでいくつかは読んだが、どうも合わないので読まないまま来た感がある。

 

改革派やルター派の神学によって養われた者の独断と偏見に満ちた目をもってであるが、『キリスト者の完全』を読んで疑問に思ったことをいくつか、正直に書いてみたいと思う。

メソジストの先生方からはご批判を受けるかもしれないが、私がこれまで学んだところから感じた強い違和感なので、こういう風景に見える、というくらいのこととして、ご容赦いただきたい。

 

まず、ウェスレーの語る「キリスト者の完全」という概念は、「魂とそこから生じる生活が神への愛と隣人愛に完全に満たされること」だと言える。

部分的にというのではなく、魂とそこから生じる生活の全体が完全にこの「愛」に満たされることがキリスト者の完全だ。


だから、心のすべて、生活のすべてを残りなく神にささげ、神と隣人への愛のみに生きることだ。

 

このことについては、まったく同意できる。


こうした愛に満ちた魂と生活が実現することが、キリスト者にとっての「完全」であることについては、聖書的であるし、別に疑問はない。その通りだと思う。

 

しかし、ウェスレーの語るのは、こうした「完全」がキリスト者が地上のある間に達成されうる、としていることだ。

 

改革派やルター派の神学では、基本的に人間は死に至るまで罪が残存しており、終末の世界において、罪から完全に清められると考える。


つまり、ウェスレーが語るところの「キリスト者の完全」は、地上にある間は完成しない、成就しないと考える。死にゆく床にあっても、なお罪との戦いがある、とするのだ。

 

しかし、ウェスレーはここの見解が違う。「キリスト者の完全」は、「達成可能」だという。事実、これが達成したキリスト者がいる、と語るのだ。

 

つまり、人間は地上にある間、原罪が清められ、罪なき完全な状態に至ることができる、ということだ。

 

「聖化」のゴールを、終末ではなく、この世においてありうるものとしたということだ。

 

この教理の帰結として、どういうことがあるだろうか。

 

①「聖化を達成しようとする思いが強められる」


 この教理のポジティブな側面としては、「キリスト者の完全」をこの世において達成可能としたことによって、これを慕い求める心が引き起こされるところだろう。


「神のみに生きる清い生活」を一筋に求めていくような心を涵養するものだと思う。


「聖化」を求める霊性を養いやすいということでは、現代の世俗化が進んだ世界においては、有効な面があるかもしれない。

 

②「熱狂主義や、霊的高慢に傾く」


 改革派やルター派の「罪の残存」の教理は、キリスト者を生涯不完全とすることによって、かえって「へりくだり」を教えるものだ。


神の前に罪人であり、罪を告白しながら生きるということで、「謙遜」な精神性となりやすい。「地の足の着いた」信仰となる。


しかし、ウェスレーの教えはキリスト者が自らを「罪人」としてよりも「義人」「清い人」として考えることを奨励する側面がある。


これが昂じると、キリスト者が自分の罪の清めについて誇るような、霊的高慢が生じることがありえる。


また、「罪を清められた人」と「そうでない人」の区別の問題も出てくる。


さらに極端化すると、熱狂的な信仰にまで発展しかねない。事実、ウェスレーはこうした「熱狂主義者」たちを抑制するための説教を何度もしなければならなかったようだ。

 

もともと、「聖なる生活」を熱烈に求めるところにメソジストが誕生したことを考えると、「罪の残存」の教理はそうした思いに冷や水を浴びせるものであり、清さを求める人にとって「手枷足枷」に思えただろう。


そこで、ウェスレー自身も霊的体験を重ねることで、罪は完全に清められうるという方向に考えていったのだと思う。

 


齋藤真行牧師の説教・牧会チャンネル

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