北森嘉蔵 『神の痛みの神学』
北森嘉蔵という神学者のことを、若い世代のキリスト者ほど知らないように思う。
東京神学大学で教鞭をとられた神学者だ。
世界的にも名前が知られた『神の痛みの神学』の著者である。
わたしは洗礼を受けてのち、この書物によって大変養われ、導かれた。
北森嘉蔵が講座で語ったテープを大学の教授からお借りして、延々と毎日聞いたこともある。
青年時代の信仰を支えてくれた、恩人の神学者の一人だ。
『神の痛みの神学』との出会いによって、自分自身の信仰が相当クリアにされた面がある。
北森は「痛む神」という概念を導入した神学者として、有名になった。
ギリシアの神観念は、アリストテレスが描くような、「不動の動者」という性格をもつ。
つまり、自分自身は決して動くことがなく他を動かす存在であり、「痛む」ことなどありえない。
この「痛まない神」という観念によってキリスト教神学は影響され、多大なダメージを受けた、と北森は考える。
そして、聖書のうちに示されているのは、ギリシアの神観念とは異なる、「痛む神」なのだ、ということを示していく。
母親は子供の人生がうまくいかないのをつぶさに見るとき、「つらさ」のあまりに涙を流す。
そのように、神も罪人が神の御心にかなわないのをご覧になるとき、その「痛み」をご自分に引き受ける。
神はその「痛み」を罪人をこらしめ、復讐することによって晴らすこともできるにもかかわらず、つらさを秘める母のように、ご自分のうちにその痛みを担い、その痛みを耐えることを通して罪人を受け入れてくださる。
それこそイエス・キリストの十字架の愛なのだ、ということを、北森は描き出していく。
「受け入れられない者が受け入れられる」
「希望のない者にこそ希望がある」
「赦されない者が赦される」
この逆説が示すのは、神が罪人の罪の痛みをご自分に引き受けてまで、絶望以外にない罪人を「包んでくださる」お方であるということだ。
錐を布が包めば、その錐の刃で布が破れる。
同じように、罪人を神が包むと、その罪によって神の御心が引き裂かれる。その痛みを担い、愛を示されたのがイエス・キリストの十字架なのだ。
北森は、このように罪人の罪をキリストにおいて背負う「痛む神」を語ることで、論理的にも非常にクリアで深遠な「十字架の神学」を樹立したと言える。
『神の痛みの神学』をぜひご一読いただきたい。恵まれ、教えられる信仰の宝庫だ。
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